Vol.04:『演出用具~マーチングの限界~』

近年、多くの団体が演出用にさまざまな大道具や小道具を製作し、用いています。『日本マーチングバンド協会』の定義である「マーチングとは、吹奏楽の静的な要素に動的な要素を加味したもの」というものを、大きく超えた存在となっています。では、この演出用具について考えてみたいと思います。

例えば、映画音楽を題材として選択することは、非常に多いと思います。しかし、動きと音楽だけでは、その映画の世界を観客に明確に伝えることは難しいのではないかと、そう思います。映画では、主人公や脇役などのキャラクター、そしてその舞台となっている背景世界がスクリーンの中に共存しています。そこに、その演技や表情の印象をより強くし、明確にするための音楽が加わっています。まるで牛丼の上の紅生姜や、カレーライスの上の福神漬けなどのようにです。つまり、映画では、映像がメインであり、音楽は付加的なものなのです。マーチングではもちろん音楽がメインですから、映画において付加的な存在であったものがメインにくることになります。しかし、紅生姜だけを見てそれを牛丼だと、福神漬けだけを見てそれをカレーライスだと、わからないように、映像だけを見て映画のテーマが明確にわかっても、音楽だけを聴いて映画のテーマは明確にはわかりません。

同様にミュージカルなどの舞台音楽においても、音楽だけではそのテーマは明確にはわかりません。やはり動きや台詞、曲につけられた詩、背景世界によって、そのテーマは語られ伝えられるのです。つまり、この点において「吹奏楽の静的な要素の動的な要素を加味したもの」というだけのマーチングは、限界を迎えることになります。

しかし、演出用具を用いることによって、その限界を僅かながら押し上げることが可能です。ただ、映画やミュージカルなどの音楽を題材とすると、本材によるイメージが観客の頭の中に浸透してしまっていることがあり、それに逆らった演出は好まれません。例えば、エジプトを描いたものを題材とするのであればピラミッドを配置し、中国を描いたものを題材とするのであればチャイナ服を着用します。あの『オペラ座の怪人』を題材とするのであればやはり仮面が必要でしょう。題材としたもの自体が持つ特徴的なもの、あるいはワン・シーンで用いられたものや振りなどを取り入れるようにすることで、観客の頭の中にあるイメージに逆らうことなく、よりショウのテーマを印象付けることが可能になります。このようにして、Color GuardなどのFlag TeamやRifle Teamなどが花を添えるものとして定義の中のマーチングに取り込まれてきたと同様、その他の演出用具もまた同じ存在として組み込むことにより、定義内の限界を押し上げることが可能なのです。

さて、以上『演出用具~マーチングの限界~』と題して述べてきましたが、裏を返せば、このタイトルは『演出用具の印象的効用』と書き換えることができます。つまり、さまざまな演出用具を用いることによって動きや音楽だけでは表すことのできなかった部分を表現することが可能になり、観客に与える印象がより強く、明確になったと言えます。ただし、題材によっては演出が牽制されることも、反面ではあるのですが。

 

※こちらは、2001年1月25日に書き、2010年6月23日に一部修正した記事です。

Comments are closed.